Chapter1-4『火山の巨岩』
クエストボードに目をやると、いつもの倍以上はあるかというクエストカードがびっしり貼られていた。
『いいクエストが取られてしまう』というジンの予想は外れたわけだ。
そのクエストカードを一つ一つ見ていると、
「ジン、久しぶり!風邪引かなかった?」
という声。
集会所の受付嬢にして、看板娘のレビィだ。
「あぁ。暇すぎて体がなまったけどな。」
「雨のせいでこっちは商売上がったりだったけど、皆来てくれてよかったわ。」
「はは。なら今日はレビィのオススメのクエストに行くとするか。」
「ホント!?ふふふ…出来るだけ素材が高く売れるもの…。覚悟してなさい!」
「ははは…。お手柔らかに頼むぜ。今日は俺とレオン、ゼロ、レイの四人だ。」
「おっけ〜」
レビィは手元の手帳をぱらぱら捲る。
そこには幾つもの付箋が付けられており、クエストカードやら、注文伝票やら、一概には言い切れないレビィの仕事が詰まっていた。
レビィとジンは幼馴染、そして彼女もレオン同様、ジンと同い年だ。
飛竜やハンターのことは何も解らないが、クエストの情報はハンター以上に詳しい。
そしてレビィはハンターたちに絶大な人気がある。
気前もよく、物腰柔らかで優しい彼女は―――
「ところでジン、今度街に行かない?お買い物とか、ごはんとか…」
―――ジンにほのかな恋心を抱いていた。
「ん?戦闘街での狩猟は、俺はハンターランク3だから受けられないぞ?」
「………」
「ん?どうしたんだ?」
「うむぅ〜…レオンくんはガンランサーだよね。んじゃ、これなんかどぉ?」
と言いながら、レビィは1枚のクエストカードをクエストリストから取り出し、ジンに手渡した。
そこにはこう書いてあった。
「南方の富豪:
娘の誕生日のために、首飾りを送りたく、上質なクリスタルが欲しい。
しかし火山には、岩のようなワイバーンの幼体、バサルモスがいて、採掘に行くのは危険すぎる。
バサルモスを倒して欲しい。
あ、ついでに鉱石も取ってきてくれたら楽だな〜なんて…
報酬金:4800z 契約金:600z」
「バサルモスだから、太刀のジンには天敵だけど…」
レビィはジンを想ってか、少し申し訳なさそうに言った。
「でもガンランスと弓とハンマーには最適だな。レビィ、これ受注するよ。」
ふぅ、とレビィはひとつため息をついた。
どこまでも仲間想いなリーダーに、呆れたわけではなかった。
「分かったわ。くれぐれも気をつけてね。一週間、火山は無法地帯になってたわけだから。」
ボルカ村の承認印がクエストカードにでかでかと押された。
「気をつけるよ。」そう言うと、ジンはレオンたちのほうを振り向いた。
「みんな。バサルモスだが…いいか?」
「いいぞ」「勿論です」「賛成ぇ!」
皆が口々に言いながら、ジンを先頭に集会所の出口へと向かう。
「あっ…」
慌ててレビィが叫んだ。
「みんな!ジン!馬車は火山行きの白毛のナツの馬車だよ!」
「わかった!」
レイがもっと大きな声で答えた。
「みんな気をつけてね〜!!」
レビィの声が響いた。
4人が馬車乗り場に行くと、白い毛の猫が鼻ちょうちんを作って居眠りをしていた。
その白猫を、ゼロが揺さぶり起こす。
「ん……んニャ!寝てないニャ!!あんたらかニャ?!火山行きは。」
「いや、誰も寝てただろとか言ってねぇ…つーか、寝てたじゃねぇか!」
「ナツくん、本日は火山までの道のり、宜しくおねがいします。」
皆が乗り込むとき、レオンが言った。
「おう!任せろニャ!」
レオンが猫に対しても丁寧な口調で話し、ネコは偉そうに返答する。
ジンは少し笑ってしまった。
馬車と言っても、正式には『獣車』もしくは『竜車』と呼ぶべきなのだろう。
ただ皆が『獣車』という言葉が言いにくいのと、『竜車』だと飛竜を連想してしまうから、だそうだ。
原動力はアプトノスで、馬よりかは格段に遅いが、持久力もパワーもある。
三時間も経たないうちに、火山地帯のギルド指定キャンプに到着した。
眠らない山、レンスボロック山。
此処へ来れば誰もが、その生きる山――自ら拍動する山を肌で感じる。
それは『山そのものが龍なのでは』とまがうほどだった。
ジンたちは走り出す。
キャンプを出てすぐから、巨大なドームのような洞窟状のエリア。
溶岩がせめぎ合いながら所々に流れている。
むせ返るような悪臭と、立ち込める熱気だけで、慣れない人間――少なくともハンターでなければまさに此処は地獄なのだ。
そのハンターとて、慣れぬうちはその息苦しさから体が思うように動かず、思わぬ苦戦を強いられることも少なくない。
「とりあえず…分かってると思うがバサルモスは普通は土に隠れてる。」
洞窟に入って、初めて口を開いたのはジンだった。
「―――だから“コレ”を使う。」
『千里眼の薬』という、特殊な薬品のビンをポーチから取り出し、ふたを開けた。
ビン1本分を全て飲みほすと、奇妙な味がのどに刺さった。
それとともに、不思議な感覚が全身に走る。
五感が極限まで引き出され、竜の鼓動が間近で聞こえてくる…竜の動きが、手に取る様に伝わってくるのだ。
竜の特殊な血の流れに反応する、古くから伝わる特殊な薬品。
それが『千里眼の薬』だ。
「あの出口の先の、もう一つ向こうのエリアだ…」
指を差したジンは、まるで超能力者のようだ。
ジンの言葉を聞き、全員がいっせいに目的地へ駆け出した。
洞窟を抜け出すと、そこには大きく拓けた大地が広がっていた。
池のような煮えたぎるマグマから、川のように溶岩が流れ出している。
溶岩の川に近寄るだけで、体力が奪われてしまう。
そんな危険な場所でも、バサルモスは堅い甲殻を纏って、顔色変えることなく生息している。
マグマの海をはさんだ向こう側は、こちらよりもっと広くなっていた。
そこを見渡す。
黒い火山灰の大地に似つかわしくない、鈍い白をした大きな岩が、ポツンと埋まっているのが見えた。
「あれか…」
モンスターハンター二次創作小説『炎の山の狩人たち』